17760067

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Last-modified: 2013-10-26 (Sat) 13:43:21 (2035d)

研究成果

情報伝達の観点から迫るエージェントモデルの構造と解析

平成 17年度-19年度 科研費若手研究(B) (17760067)

謝辞:本研究は日本学術振興会から科学研究費補助金若手研究(B)(17760067)の援助を受けて行われたものです。
This work was supported by KAKENHI for Young Scientists (B) (17760067) .

概要

多数の行動主体(エージェント)から構成される体系(社会・経済システム)において、情報伝達経路が体系(体制・組織)を決定しているので、観測可能なそれぞれのエージェントの行動に関する情報を集積することにより情報伝達経路の様子やエージェントの内部状態を理解することは、社会システムで生じる諸現象のメカニズムの解明に接近する有力な方法論となると期待される。特に、情報伝達機能の観点からエージェント集団を数理的に分析し、体系で観測されるゆらぎの定量化を含む体系の状態把握手法の開発と観測事実と整合的な数理モデルによるエージェント集団のモデル化を行った。具体的には、外国為替市場における参加者の気配行動に関する高頻度経済時系列データを長期間にわたり収集し、市場参加者の集団行動の様子を世界規模で定量化できることを実証した。そして、金融市場の状態を定量化する数理的方法論の構築および定量化・可視化を行うシステムのプロトタイプの建設を行った。収集した高精度データおよび構築した方法論とシステムを用いて以下のことが明らかになった。

(a)外国為替市場の市場参加者の気配行動頻度は、世界経済のグローバル化と情報通信技術(ICT)の発展により10年間で約10倍に増加している

(b)情報生成速度はしばしば人間の情報処理速度の上限である100ms以下となっている

(c)市場参加者の行動が同期し、行動頻度が急激に増加する現象が頻発している

(d)気配行動頻度のスペクトル分析の結果、気配行動に優位な周期的成分の存在を確認した

(e)地球の自転とともに市場参加者が入れ替わることに起因した行動頻度の類似性の時間的変化が確認される

複数の市場参加者が複数の通貨ペアを交換する金融市場の数理モデルを提案し、(d), (e)の観測事実と提案モデルが整合的であることを数値シミュレーションおよび理論分析を通じて示した。また、外生的に作用する周期的な情報が存在しているという仮定のもとで、行動頻度のパワースペクトルから計算される特徴的周波数での信号対ノイズ比と市場参加者のパラメータのばらつき度合いとの間に確率共鳴効果が認められる仮説を提案した

成果報告

平成17年度報告

初年度は外国為替市場の高頻度時系列分析を行なった。対象とした高頻度時系列データはCQG社が提供する外国為替市場で取引相手を探し出すために市場参加者がブローキングシステムを通じて提示する建値と提示時刻の記録からなるものである。分析対象とした通貨ペアは流通量が多い通貨ペアであるUSD/JPY(1991年-2004年),EUR/USD(1999年-2004年),EUR/JPY(1999年-2004年)である。本分析では、市場参加者がブローキングシステムに対する働きかけの頻度に着目した。これは、脳神経科学におけるパルス頻度が情報の伝播を担っているという仮説との類似性から、外国為替市場において建値提示頻度が情報伝播に関係していると考えたからである。高頻度時系列から計算されるティック頻度に対するスペクトル分析の結果以下のことが明らかになった。

1.外国為替市場の建値ティック頻度には、数分の周期性が現われたり、消えたりする現象を分析期間から2002年までの間に各通貨ペアに対して断続的に見出した

2.周期的な振る舞いには地域性があり、アジア活動時間帯、アメリカ活動時間帯ではほとんど確認されない一方、ヨーロッパ活動時間帯で顕著に確認される

3.確認された周期性の振動数は通貨ペアによって異なり、また、複数の周期性が表れる場合すらある

4.ティック頻度のスペクトログラムをスペクトログラムの相対エントロピーによって定量化する手法を開発し、この手法を用いてスペクトログラムの類似度の観点から、USD/JPY,EUR/USD,EUR/JPYの通貨ペアのティック頻度は1999年より年々類似度が増していることを確認した

5.2004年においてUSD/JPYとEUR/USDでは類似度は小さく、一方、USD/JPYとEUR/JPY,EUR/JPYとEUR/USDは類似度が高いことが見出された

このような特徴的な周期性が為替市場の建値頻度に確認される理由として3つの仮説を提案した:

1.市場参加者は共通の外因性の周期情報に駆動されるため、周期的に建値提示を行なっている(確率共鳴)

2.市場参加者の建値提示活動が相互作用を生じることによって自発的に周期的な振る舞いが生じる(自発同期)

3.ブローキングシステムのシステム運営上の要因

平成18年度報告

本年度は前年度実証分析を行った外国為替市場における注文頻度時系列分析の追加分析を行い、外国為替市場で取引されている15種類の通貨ペアに対して注文頻度時系列のスペクトル分析を行った。その結果、ほとんどの通貨ペアの注文頻度時系列に数分のオーダで周期成分が検出され、更にピーク周波数は通貨ペアに対して様々な値を取りうることを見出した。このようにほとんどの通貨ペアに対して周期成分の検出が行われたことから、周期的な挙動は外国為替市場参加者に共通に見られる普遍性のある現象であると結論付けられる。このような周期的挙動の可能性として前年度に提案した仮説である市場参加者が共通の外因性周期情報を知覚しているというモデルをN人の市場参加者がM種類の通貨ペアの交換を行うという二分グラフによるエージェントモデルを用いたモデルに拡張した。このモデルはエージェントが市場の状態と外部情報を知覚し、この状態に基づき判断を行い売る、待つ、買うの3つの行動のいずれかを生起するモデルである。市場価格は市場参加者が取った投資態度から決まる超過需要によって動き、注文頻度は買うあるいは売るの行動の選択総数から決まると仮定した。たとえ、投資行動に直接関係しないほど弱い周期情報であっても、全てのエージェントが共通の周期的に脈動する情報を知覚していると仮定すると、注文行動頻度時系列のパワースペクトルに周期情報の周波数に対応したピークが現れることを数値シミュレーションにより示した。更に、前年度提案した行動頻度時系列のパワースペクトルの形状を比較する数理的手法を、エージェントモデルにより分析した。その結果、スペクトル形状の差異とエージェントの行動パラメータとの差異とに相関があることを数値的、理論的に見出した。更に、提案手法の計算に短時間フーリエ変換を利用することにより、高解像度でエージェントの振舞いの差異を動的ネットワークを用いて可視化する技術と、可視化したネットワークの総合的な判定尺度を提案した。以上より、市場参加者の行動頻度時系列を分析することによって、市場参加者の状態すなわち市場の状況を推測できることを示した。

平成19年度報告

エージェントの情報の知覚から行動に至る過程を心理学で提唱されているSatirの7段階モデルに基づきモデル化し、前年度に提案したN人の市場参加者がM種類の金融商品を交換する金融市場のエージェントモデルを説明能力の高まる方向に拡張した。そして、平成17年度と18年度に実施した実証分析から得られた観測事実と対比しながらモデルの数値分析および理論分析を行い以下の成果を得た:

1.行動頻度のスペクトル分析の結果得られた特徴的周期成分の周波数のグループ構造は市場参加者の情報の知覚と行動に関するグループ構造と関係する可能性がある。

2.エージェントの情報の知覚と行動を決定するパラメータの動的変化に応じて、行動頻度と注文価格の類似度の動的変化が生じており、エージェントのパラーメータ分布形状と行動頻度間の類似性との間の相関関係がある。

3.標準偏差の2倍以上の価格変動が生じうる理由は市場参加者の予測行動と関係する。

4.エージェントモデルの行動頻度と対数収益率に対応する変数に対して、平均場的な縮約近似を行うことによりエージェントのパラメータ変化に起因した時変パラメータを含む時変多変量自己回帰過程(時変VARモデル)を導出した。

エージェント集団に対して、行動頻度の周期的振る舞いの構造および、それらの類似性の時間変化を調べることにより、参加者集団の組織構造および参加者の内部状態を推定できる可能性を示した。このことは、エージェント集団の情報伝達の構造と内部状態を推定する方法として、行動頻度で観測される確率共鳴(共振)現象および行動頻度間の類似性構造を利用することに対する理論的根拠を与えた意義がある。また、本研究成果は、金融市場を含む人間の社会活動を、観測可能な行動の様子を網羅的に収集することにより、個人を特定することなく匿名性の高い状況で定量化・可視化するための基礎技術となり、重要な見地をもたらした。

キーワード

  • 行動頻度
  • 外国為替市場
  • 高精度金融時系列
  • スペクトル解析
  • スペクトル距離
  • エージェントモデル
  • 確率共鳴(共振)
  • 動的ネットワーク

発表論文

英文

和文


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